▮はじめに
痛みは身体からの警告として知られており、人間が生きていく上で重要な感覚です。
しかし、痛みがきっかけで動く機会が減り運動機能が低下してくことや、痛みにより精神的に不安定になったり、痛みにより仕事のパフォーマンスが低下し社会的に不利になることがあります。
痛みの原因がはっきりしているケースは対応可能ですが、原因不明とされる痛みも多々存在し、不定愁訴として扱われることがあります。
その一つが今回紹介する中枢性感作症候群(Central Sensitivity Syndrome:CSS)です。もしよければ短文なので最後までお読みください。
【要約】
・中枢性感作とは、不定愁訴と思われがちな痛みで、様々な刺激が痛み刺激に変換されてしまう現象です。
・運動習慣のない人、交流機会が少ない人に中枢性感作の患者が多いと言われています。
・治療は運動、教育、薬物療法があり、評価方法も存在する。
▮中枢性感作とは
中枢性感作とは、「中枢神経系(脳および脊髄)における痛覚過敏を誘発する神経信号の拡大」と定義されています。
本来は痛みに感じない刺激も痛み刺激に変換されてしまいますが、これをWind up現象といいます。
また、痛みの増大のみでなく、本来備わっている痛みの抑制機構(下行性疼痛抑制系)の機能低下を引き起こすともいわれています。
痛み以外に睡眠の障害、触覚アロディニア症状、光やにおいに対する過敏症状、下痢や便秘などの胃腸症状、イライラ感、抑うつ(心理的要因)、不安感など様々なものが引き金となり起こると言われています。
つまり、炎症や軟部組織の柔軟性低下などのような明らかな痛みの原因がないにも関わらず神経の影響により痛みを感じてしまう現象です。
▮中枢性感作になってしまう原因は?
原因ははっきりしていませんが、一つの調査をお伝えします。
これは、平均年齢約74歳の男女768人を対象とした質問紙によるものですが、
✔運動習慣をもっていない人ほど中枢神経感作は高い傾向が示された。
✔少なくとも月に一回は会ったり話したりする友人がいるなど周りに頼れる人がいるほど中枢神経感作は有意に低かった。
✔生きがいをもっている高齢者は中枢神経感作が有意に低かった。
と報告されています。
▮中枢性感作の治療と評価
治療は以下の3つが主に行われているものですが、今後情報がアップデートされていく分野かと思います。
✔運動療法
上記のように運動が良いですが、過剰に運動に対して恐怖心を抱いたり、過度に患部を保護しようとしたり痛みに対するネガティブな思考(破局的思考)が増大してしまうので運動課題の設定が重要です。
✔患者教育
患者の訴えを傾聴しながら細かいフィードバックを行い、痛みに対する誤った認知を是正していくため、患者自身で治療していくというスタンスが重要です。
✔薬物療法
薬物療法は私の専門外なのでここでは紹介いたしません。
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)、日本ペインクリニック学会神経傷害性疼痛のガイドラインなどをご参照下さい。
評価に関しては、Central Sensitization Inventory(CSI)というものが高い妥当性と信頼性が報告されています。
▮CSI
CSIは 健康関連の症状を問う Part A(CSI score)および、CSS に特徴的な疾患の診断歴の有無を問う Part B で構成されています。
臨床的には、以下の重症度レベルに分けられています。
・0–29 点:subclinical
・ 30–39 点 : mild
・40–49 点 : moderate
・50–59 点 :severe
・60–100 点:extreme
※著作権の関係で現物は載せておりませんので、興味のある人は自身でお調べいただくようお願いいたします。
▮おわりに
少し難しい内容だったと思います、お読みいただきありがとうございました。
このような痛みがあるというだけも頭に入れていただき、慢性疼痛患者に対する理解が広がると良いと考えています。
【参考文献】
・西上智彦,神経治療,2019
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/36/4/36_505/_pdf
・Hayato Shigetoh,et al,Pain Research and Management 2019
https://www.hindawi.com/journals/prm/2019/3916135/
・端詰 勝敬ら,神経治療,2020
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/37/4/37_671/_pdf
・日本緩和医療学会,がん性疼痛の薬物療法に関するガイドライン2010年版
・日本ペインクリニック学会 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン
https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide06_13.pdf
・Scerbo T,et al, Pain Pract, 2018
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28851012/