▮はじめに
脳卒中になり上肢の麻痺を呈すると、多くの方が肩関節の少し脱臼するような状態(亜脱臼)になります。
この記事では、その亜脱臼について文献的な見解に私見を交えて説明したいと思います。
【記事の要約】 ・脳卒中になると麻痺側肩関節に30-50%の割合で亜脱臼がみられる。 ・亜脱臼側の棘上筋は断裂していることが多い。 ・スリングは亜脱臼に対するエビデンスは不十分。
▮脳卒中片麻痺になると、どのくらいの人が肩関節の亜脱臼があるの?
古い文献ですが、脳卒中片麻痺になると30〜50%の人が肩関節亜脱臼になるという報告があります(参考文献)。
また、この文献によると肩関節亜脱臼側の胸椎が凸している事が多い(約4割)とのことです。
※亜脱臼側に胸椎が凸している図(極端に書いています)
<私の経験でも、5割くらいの人が麻痺側の肩関節が亜脱臼している印象があります。そして、亜脱臼している人は胸椎凸になっていると思います。>
▮脳卒中片麻痺の肩関節亜脱臼側の特徴
Basmajian や Cailliet は、亜脱臼している側の棘上筋や三角筋の機能低下に加え、肩甲骨の下方回旋に伴い関節窩が下向きになることが片麻痺患者に
しかし、小林英司らの報告によると脳卒中片麻痺の亜脱臼側の肩甲骨下方回旋と脱臼の度合いに関連はなかったと述べています(参考文献)。
※肩甲骨下方回旋
脳卒中片麻痺患者19名中18名が棘上筋の断裂が認められたという報告があります(参考文献)。
※棘上筋
<私の経験でも、肩関節亜脱臼側の肩甲骨が下方回旋しているかどうかは微妙です。下方回旋していない人もいます。しかし、下方回旋していると、脱臼しやすいという知識は入れておくと良いと思います。また、棘上筋に関しては、亜脱臼している人はほとんど断裂している印象があります。>
▮肩関節亜脱臼への対処法
①装具(スリング)
遠藤らの報告では、自己装着が可能な肩関節の装具により亜脱臼が改善したと述べられています(参考文献)。
しかし、コクランレビュー(★)によると、
スリングおよび車椅子用アタッチメントが脳卒中後の肩の亜脱臼を予防し、疼痛を軽減し、 機能を改善し、有害作用として拘縮を悪化させるかどうか、結論を 下すにはエビデンスが不十分である。 ただし若干のエビデンスから 、ストラップで肩を固定する介入法は疼痛の発症を遅らせるが、疼 痛を軽減せず、機能を改善せず、有害作用として拘縮を悪化させる こともないことが示されている。
このように述べられています。
<私の経験では、やはり装具を使用すると肩関節の亜脱臼による痛みは軽減する印象があります。ただし、完全に使用しなくなるので、廃用手になるリスクもあります。うまく使えば有効だと思います。>
②運動療法
麻痺している側の腱板(インナーマッスル)を鍛えるのは難しいですが、麻痺側の上肢が動くようになってくると亜脱臼は軽減すると思われますので、亜脱臼の予防をするならば麻痺側の運動は必要になります。
※無理に運動して代償動作が強くなる可能性があるので、セラピストにご相談ください。
<個人的には、肩関節の筋肉をうまく使うためにも体幹トレーニングは重要だと考えます。また、肩を動かすというよりも、手を床について荷重させる(下図)のも良いです!>
③ポジショニング
麻痺した腕が重力に引っ張られて下に下がるので亜脱臼しやすくなります。
よって、寝る時に腕の下に枕を置く、座っている時に腕がぶらーっとならないように枕を置くなどの対応が良いと思います。
<麻痺の程度が緊張が高いタイプは亜脱臼になりにくいですが、弛緩性の麻痺や肩周囲筋の麻痺が強い場合は亜脱臼になりやすいと思いますので、麻痺の程度に合わせて対応していく必要があります。>
▮おわりに
脳卒中片麻痺になり、上肢の麻痺になると改善が難しいとされているため、亜脱臼になりやすいと思われます。
亜脱臼の予防としては、麻痺側の肩周囲筋の運動は行っておいた方が良いと言えます。
しかし、亜脱臼にならないような対応と亜脱臼になった後の対応はほぼ同じなので、対処法は知っておくと良いと思います。
少しでも参考になれば幸いです。
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【参考文献】
・猪飼哲夫ら:脳卒中片麻痺患者の肩関節亜脱臼の検討一経 時的変化 について一.リハビリテーション医学VOL. 29 NO. 7 1992年7月
・小林英司ら:脳卒中片麻痺患者における肩甲骨回旋角度と肩関節亜脱臼の関係.Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
・比嘉丈矢ら:片麻痺患者肩関節のMRIを用いた検討.整形外科と災害外科.50 巻 (2001) 4 号
・遠藤正英ら:脳卒中片麻痺における肩甲上腕関節の亜脱臼に対する新しい装具.義肢装具学会誌 Vol. 31.No. 3.2015