リハビリテーション関係

変形性股関節症と人工股関節置換術(THA)のリハビリ

 はじめに

変形性股関節症をご存知でしょうか?
これは股関節の形が不適切で、うまく荷重ができない状態です。
股関節は本来、下の写真のように骨盤と斜めに位置しており、骨盤と大腿骨の凹凸がはまることで安定しています。

骨の変形などでこの凹凸がぴったりはまらないと荷重がうまく行えず、痛みや歩行困難の症状につながります。

日本での有病率は1.0~4.3%と案外多いです(ガイドライン2016より
ちなみに患者さんの多くは女性で、生まれつきのものが80%と言われています(日本整形外科学会HPより)。
そこで、今回の記事では変形性股関節症のリハビリをどのように進めていけばよいのか、というのを私見を交えて書きたいと思います。

【要約】
・変形性股関節症の主症状は痛みですが、特徴としては腰椎の側弯と脚長差が現れる人が多い。
・リハビリテーションは、有酸素運動、ストレッチ、筋トレが主である。
・手術を行う場合もあり、行った場合は手術前後のリハビリが重要になる。

変形性股関節症の症状

私は変形性股関節症の方をたくさん見てきましたが、症状の多くは、関節の痛み立ち上がりや歩き始めに脚の付け根の痛みになります。
これらの症状は変形性股関節症では典型的な症状です。

また、変形性股関節症の人は腰椎側弯が多いです。
文献によると、その頻度は 40%であり、腰椎側弯は患側に凸している割合が 26%、健側に凸している割合が 14%のようで、患側に凸している割合が多いそうです(参考文献)

それに伴い脚長差 が 多くの変形性股関節症の人にみられます。
文献によると、脚長差が3㎝ 以上で腰椎側弯が患側凸の頻度が63%と有意に高率となるそうです(参考文献)。

変形性股関節症のリハビリ

変形性股関節症に対しては、手術しない方法(保存療法)と手術する方法があります。
どちらにしてもリハビリは必要になります。

保存療法の場合

手術しない場合は、有酸素運動、ストレッチ(徒手療法)、筋トレが有効だと言われています(ガイドラインより)。

有酸素運動痛みが強くない範囲で行うのが良いです。
ストレッチは股関節周囲は大事ですが、そこだけでなく全身を動かすのが良いです。
筋トレは、股関節周囲筋や膝関節伸展筋を鍛える研究が多いですが、個人的にはそれに加え、体幹と足部へのアプリーチが重要と考えています。

・体幹を見る理由①
股関節と脊柱はセットで動く(Hip-Spine Syndrome)機構があるため、不適合な股関節があると荷重をするために、骨盤を傾斜させます。骨盤を傾斜するため、骨盤に付着する体幹筋もセットで見る必要があります。

・体幹を見る理由②
股関節を安定化させる筋肉は、腸腰筋と内閉鎖筋と言われています。
内閉鎖筋は股関節の深部筋ですが、腸腰筋は腰椎~大腿骨に付着している筋肉のため、脊柱も見る必要があります。

・足部を見る理由①
股関節での荷重が不十分な場合、立位での足部への負担が大きくなります
よって、足指、足部が変形している場合もあります。

・足部を見る理由②
前述したように脚長差が出ることが多いので、対処法としてインソールを使ったりすることもあります。

もちろん見るポイントは人によって変わりますので、必ずしも体幹と足部だけだ大事とう訳ではありませんので、誤解のないようにお願い致します。

手術を行った場合

変形性股関節症に対して保存療法を行ったにも関わらず、生活に支障が出るほどの痛みが出ている場合は手術も選択肢に入ります。
手術の方法は大きくは下の3つが挙げられます(参考サイト)。

・関節鏡視下手術
・骨切り術
・人工関節置換術

この中で人工関節置換術を行う人が多いので、それに関するリハビリについて説明します。
まず、大事なことは、手術後だけでなく手術前のリハビリも大事だということです。
手術前の状態が良い方が手術後にリハビリがスムースに行きます。

人工関節置換術後ですが、手術した側の股関節周囲の筋力が低下します。
しかし、股関節外転筋、股関節伸展筋、膝関節屈曲筋は術後の回復は良い傾向にありますが、膝関節伸展筋の回復が遅れる傾向にあるという報告があります(参考文献)。

また、人工股関節置換術後は歩行時の歩幅の低下が起こりえますが、この原因は股伸展の可動域制限股関節の外転筋力低下による影響が強いという報告があります(参考文献)。
※ 股関節伸展制限があると下の写真のように脚が後方に行かないため歩幅が減少します。

このことから、手術前から股関節周囲筋と膝周囲筋の筋トレやストレッチは行った方が良いです。
手術後は特に股関節伸展方向へのストレッチ、股関節外転筋と膝関節伸展筋の筋トレは必要になります。
それに加えて、前述した体幹と足部も行っていくと良いと思います。

脱臼リスク

最後に、脱臼リスクについて述べておきます。
術式によりますが、多くは股関節屈曲、内転、内旋位が脱臼しやすいのでよくないと言われています。
2006年のガイドラインでは5~15%の割合で脱臼すると言われていましたが、最近ではかなり脱臼リスクは低くなっており、船橋整形病院のホームページでは脱臼率は0.2%と報告しています。
医療の進歩はすごいですね。

おわりに

今回は、変形性股関節症の症状とリハビリに関する内容を書きましたが、リハビリ内容は一人一人のオーダーメイドなので、あくまで参考程度に考えて頂けると助かります。

※執筆者のサロン➔こちら

【参考文献】
・日本整形外科学会 日本股関節学会.変形性股関節症診療ガイドライン2016
・森本,曾田ら:変形性股関節症の脚長差と腰椎側弯の関係.整形外科と災害外科59(3).2010
・塚越 累ら:人工股関節置換術後における股・膝関節周囲筋の筋力推移.Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
・塚越 累ら:人工股関節置換術後における股・膝関節周囲筋の筋力推移.Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
・船橋整形外科病院 人工関節置換術に関するQ&A ホームページ
https://www.fff.or.jp/seikei/artificialjoint_center/faq.html

 

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