介護「環境のもつ多様な情報の中から、環境の中に潜む情報に気づき、選択することによって行為が生まれる(野村,2008)」、と言われています。
これをGibsonは「知覚 – 行為循環」と呼んでいます。これは環境によって心も身体も動かされているということです。
どのような環境と接触してきたかによって、その動作や行為は柔軟性をもち、環境の情報量に対応して無限に分化できる可能性を持っていると述べられています(高井,2003)。
つまり、環境の種類が動作や行為に影響しているということです。
本稿は環境が身体へ与える影響についての記事となります。
【要約】 ・環境が生物に行為を与えている ・視覚、聴覚、体性感覚によって無意識に心身が動いている ・環境からアプローチすることで能動性を引き出すことができる
▮アフォーダンスとは
アフォーダンスとはGibsonの造語で 、「〜することができる、~する余裕がある、生む、与える」というような意味を持つ「afford 」と、「性質、状態、行為」をさす「−ance 」から構成される用語です。
つまり、環境が生物(ヒト)に行為を与えることをアフォーダンスといいます。
環境からの情報は主に
●視覚
●聴覚
●体性感覚
となります!
次項からは視覚、聴覚、体性感覚の各論を述べていきます。
▮視覚からアフォーダンスを考える
下の写真を見てください。
取っ手のついたコップ(写真右)をつかむ時は、取っ手を持つような腕や手の形に誘導されます。
また、上の輪っかがついた箱(写真左)を見ると、輪っかをもつような腕や手の形に誘導されます。
次に、下の写真は駅の階段とエスカレーターです。多くの人は無意識にエスカレーターを利用します。
これは、楽をしたい、という本能をヒトは持っている為にそのような心理になり、エスカレータを選択させられていると考えられます。
また、階段の脇に手すりがありますが、無意識につかんでしまうことがあると思います。これも手すりに誘導されて腕が動かされていると言えます。
オプティカルフローという用語をご存知でしょうか?これは視覚表現の中で物体の動きをベクトルで表したものであると定義されています。
例を出すと、電車に乗っている時に隣の電車が動き出すと、止まっている電車に自分が乗っていても、自分の乗っている電車が動いたと錯覚するのはこの為です。
視覚に入ってくる環境が動く情報が入ってくることで動いていると認識していると言えます。
下の写真のような絵をみると奥の方向に進む様子がイメージできると思います。
つまり、視覚は我々に色々な情報を与えてくれて、我々の行動に影響を及ぼしている感覚と言えます。
▮聴覚からアフォーダンスを考える
聴覚も視覚と同じように無意識に身体が誘導される感覚となります。
BGMを例に出すと、
●激しい音楽➔交感神経優位(元気になる、とげとげしくなる)
●まったりした音楽➔副交感神経優位(落ち着く、ぐったりする)
のような効果があります!
私は気分に合わせて音楽を選択すると良いと考えています。
聴覚も無意識に身体に影響を及ぼしていると言えます。
▮体性感覚からアフォーダンスを考える
体性感覚とは主に触圧覚を指します。
下の写真の左は柔らか素材の椅子、右は硬い素材の椅子になります。
・柔らかい感覚➔相手に対してポジティブ(優しい)思考になる
・硬い感覚➔相手に対してネガティブ(とげとげしい)思考になる
と言われています(参考文献)。
しかしこの文献によると、
自分に対しては「柔らかい感覚➔ネガティブ思考」になると述べられており、自己と他者で思考が変わるというのが面白いところです。
つまり、皮膚からの感覚により感情がコンロトールされている可能性があるということです。
▮まとめ
・環境によって我々の心身は動かされている
・環境を変えると他人の心身を誘導することができる
と言えると思います。
世界と個人は常に動き続けており、個人は能動的に探索し知覚し続けています。個人が動けなくなると能動的に探索することが困難になり知覚情報が減少するので、個人はさらに動かなくなるという循環に陥ります。
つまり、能動的に動くことが重要ということです。
リハビリテーションの視点で言うと、環境からアプローチすることは生活の中でとても大切だと感じています。
特に高齢者や障害者に対して運動・行為を促す場合、自ら動こうとしなくても、環境からアプローチすることで能動性を引き出せたら良いですね。
以上、視覚、聴覚、体性感覚の視点から環境を捉え、環境と心身との関連について書いてみました。少しでも参考になれば幸いです。
※執筆者のサロンはこちら➔https://www.reha-me.com
※上記の内容の勉強会の様子の動画はこちら(約9分30秒)
▮参考文献
・野村寿子.治療のためのアフォーダンス–見えるところに答えを求めるエコロジカルセラピー (看護研究におけるアフォーダンスの可能性).看護研究 41(7).549-557. 2008-11
・沼崎誠ら.持つ物の柔らかさ・硬さによって生じる皮膚感覚が対人認知と自己認知に与える影響.2016
・高井逸史ら.アフォーダンス理論による姿勢と動作.日本生理人類学会誌Voi8,No4,2003年11月