医療情報関係

パーキンソン病の認知機能障害について

はじめに

パーキンソン病の発症率は10万人あたり8-18人/年と一見少ない疾患ですが、65歳以上でみると10万人あたり160人/年との確率で発症する難病です。有病率は60歳以上で1%80歳以上では3%を超えるといわれています(神経治療,2022)。
また、診断を受けていない人も多く存在していると思われるため、数字以上に多く遭遇している印象を持ちます。

パーキンソン病といえば、筋固縮、振戦、無動、姿勢反射障害などの運動症状や便秘、不眠などの自律神経症状が有名ですが、記憶障害などの認知機能障害も出現することが多く、この症状で悩まれている患者や家族をよくみますので、今回はパーキンソン病の認知機能障害に絞ってまとめていきたいと思います。

パーキンソン病の多様な症状

パーキンソン病は、黒質緻密部のドーパミンニューロンが変性・脱落し、直接路の活動低下と間接路の亢進を誘発し,基底核からの GABA 作動性出力が増加するその結果、運動機能障害、認知、学習などの高次脳機能、さらに精神活動や睡眠の障害などが誘発されると考えらます(高草木薫,日生誌,2003)。

下図のように中脳ドーパミンニューロンは、黒質緻密部腹側被蓋野後赤核領域に存在します。黒質緻密部のドーパミンニューロンは、主に被殻と尾状核に投射(黒質線条体投射)、腹側被蓋野のニューロンは、前頭連合野(中脳皮質投射)と視床下部や扁桃体・海馬など辺縁系へ(中脳辺縁系投射)投射、後赤核領域のニューロンは延髄網様体へ投射します。


図:高草木,日生誌,2003 より

このように脳のあらゆる部位とつながっていることが多様な症状の出現につながっていると思われます。

パーキンソン病の認知機能障害

パーキンソン病発症初期から認知機能障害がみられてると言われており、特に前頭葉機能に関連する認知機能が低下すると言われています(立花久大,精神経誌,2013)。

以下に代表的なパーキンソン病の認知機能障害を記載します。

①遂行機能障害

前頭葉機能の中で遂行機能障害が顕著に現れると言われています。
まず、遂行機能とは「思考や行動を計画し実行し、順序立て、中止する能力」のことです。
よって、パーキンソン病は自発的に解決を要求される課題が特に困難で、思考の柔軟性が乏しくなる傾向がみられます。

②手続き記憶障害

手続き記憶とは、「ある技能を繰り返し経験練習することにより、その操作の規則性を学習・獲得・保持するもの」で、いわゆる体で覚える記憶のことなので、動作学習能力が低い傾向にあると思われます。

③視空間認知障害

色残像の持続時間が健常者と比べて短くなるという異常や、複数の物体が重ね書きされている線画から何が描かれているかを同定する錯綜図の認知においても障害が報告されているようです(鶴谷奈津子,高次脳機能研究,2011)。

④注意機能障害

数唱、覚醒レベル、注意持続などは比較的保たれる一方、スピードを要求される認知情報処理や患者に注意資源の自己誘導を要求するような課題や、注意を変換する課題も障害されるようです(立花久大,精神経誌,2013)。

⑤情報処理速度の障害

課題の難易度が上がると情報の処理速度が低下する傾向があります。

⑥社会的認知機能障害

他者の表情や行動からその意志や感情・行動を推測したり、それに対して自己の意思決定を行う社会的認知機能が低下するようです。特に恐怖や嫌悪の表情の読み取りが苦手になるそうです。
また、意思決定の際に損な行動選択を行う傾向があるそうです(鶴谷奈津子,高次脳機能研究,2011)。

おわりに

パーキンソン病は運動障害、自律神経障害、認知機能障害と多岐にわたり症状が出現するため、関わるセラピストはそのような視点で見る必要があります。
また、本人、家族もそのような症状が出現すると頭に入れておくことが病気と付き合っていく上で重要かと思います。

 

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