▓ はじめに
中年期で肩関節の動きが悪くなった、もしくは痛めた人の多くは、肩関節周囲炎か腱板断裂のことが多いです。
今回は肩関節周囲炎は割愛し、腱板断裂について書いていきます。
【要約】
・腱板断裂は加齢に伴い罹患している人が多く、症状がない人も多い。
・明らかな外傷によるものは半数で、残りははっきりとした原因がなく、日常生活動作の中で断裂が起きる。
・治療は主に保存療法と手術療法がある。
・保存療法は薬物療法とリハビリテーションがメインで、比較的保存療法で回復することが多い。
▓ 腱板断裂の疫学
日本の腱板断裂の報告を紹介します。
対象者664 人中 147 人 (22.1%) に腱板断裂が認められた。
各年代の断裂の有病率は、20~40 代では 0%、50 代では 10.7%、60 代では 15.2%、70 代では 26.5%、80 代では 36.6% であった。
症候性の腱板断裂は全断裂の 34.7%、無症候性の断裂は 65.3% であった。無症候性の腱板断裂の有病率は 50 代では全断裂の半分であったのに対し、60 歳以上では 3 分の 2 を占めた。
断裂の有病率は 50 代と 60 代では男性の方が女性より有意に高かったが、70 代と 80 代では有意差はなかった。
このことから、腱板断裂は加齢に伴い罹患している人が多く、症状がない人も多いということです。
▓ 腱板断裂とは
ちなみに腱板断裂と腱板損傷はほとんど同じ意味で、程度によって使い分けている事が多く、部分断裂と腱板損傷はほぼ同義語です。
棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋、(上腕二頭筋長頭腱)が損傷した状態で、肩関節の動きが制限される症状や痛みが起こりやすいです。
明らかな外傷によるものは半数で、残りははっきりとした原因がなく日常生活動作の中で断裂が起きます。男性の右肩に多いことから、肩の使いすぎが原因となってことが推測されます(日本整形外科学会HPより)。
▓ 腱板損傷の判別テスト
腱板損傷の判別テストは、
- painful arc test
- drop arm test
- external(internal) rotation lag test
が有効という報告があります(Hermans,JAMA,2013)。
・Painful arc test: 肩を横に上げていき、60°〜120°の間で痛みが出て、それ以外の領域では痛みを全く感じない場合陽性
・Drop arm test: 肩を横に上げていき、60°〜120°の間で痛みが出て、それ以外の領域では痛みを全く感じなければ陽性
・external rotation lag test:他動的に外旋最終可動域までもっていき、手を離すと戻れば陽性
・internal rotation lag test:手背を腰から浮かすことができず手背が腰に接触してしまう場合陽性
※写真は日内会誌,2021より引用
▓ 腱板断裂の治療
治療は保存療法と手術療法があります。
断裂のサイズが大きいほど、再断裂のリスクが高いと言われています(Saltzman,JSES,2017)。
そして、発症3ヶ月以内に手術をすると保存療法より優位に関節可動域が改善したという報告があり、更に早期ほど術後の経過が良好と言われてる(Mukovozov,Bone Joint Res,2013)ため、断裂の大きさによっては手術したほうが良いかもしれません。
ここでは保存療法について書いていきます。
保存療法は主に以下の2つ。
- 薬物療法:痛みの緩和が主(注射、内服薬など)。
- リハビリテーション:断裂していない腱板の残存機能を高める。
- ストレッチ:大胸筋、大円筋、広背筋など
- モビライゼーション:肩甲胸郭関節
- インナーマッスルトレーニング
保存療法を行って改善するケースも多々あります。諸説ありますが、70%くらいの症例は保存療法で良くなるとも言われています。
改善が良いケースは、損傷が小さい、拘縮がない、などが条件として挙げられます。
そして、肩関節外旋筋(棘下筋、小円筋)の改善が回復のために重要という報告もあります(山岸ら、2003)。
▓ おわりに
肩関節に問題があるとADLに影響するだけでなく、メンタルにも影響するため適切な対応が重要ですね。
参考にしていただければ幸いです。
【参考文献】
- Minagawa H,et al,J Orthop,2013
- Hermans,JAMA,2013
- Saltzman,JSES,2017
- Mukovozov,Bone Joint Res,2013