リハビリテーション関係

歩行補助具の選択について~メリット、デメリットを踏まえて~



何らかのイベント(受傷、疾病、老化)がキッカケで、歩く為の補助具(以下、歩行補助具)を使用する人はたくさんいます!
歩行補助具を使用する者の多くは高齢者であり、介護保険認定者であれば、軽度者(要支援1〜要介護2)が歩行補助具の利用者の多くやや占めています。
これは、要介護3〜5の者は歩けない人が多い為、このようなデータになるものと思われます。

杖の使用は一般的に安定性に寄与することから肯定的な報告が多いですが、今回の記事では良い面だけではなく、デメリットについても触れてみたいと思います。

【記事の要約】
1.歩行補助具は、杖、歩行器(歩行車)がある。
2.杖は多種類あり、各々のメリットやデメリットがある。
3.補助具はの使い方を間違えるとデメリットになりかねない。
4.患側への荷重量、手の機能、恐怖心などにより補助具を選択。
5.結局はその人の環境や身体の状態によって適応は変わります。

 歩行補助具とは

① 杖の効果と高さ
杖の効果は支持基底面を広げることで安定性を向上させることです。
支持基底面とは下の写真のように地面と接している場所を囲った部分のことで、身体の重心はこの中から逸脱するとバランスを崩します。
基本的な使い方は、体重をうまくかけれない足(患側)と反対側の手で把持します。

杖の高さは、足の斜め前につき、肘が30度くらいになるようにするのが良いとされていますが、これにはエビデンスはありません。また、大転子の高さに設定すると良いとも言われています。


個人的には杖の高さ設定は、最終的には使用者が持ちやすい高さに設定すれば良いと思います。
ただし、肘が曲がりすぎていると腕が疲れやすいというデメリット肘が伸びすぎていると体重をかけてしまい、肩が上がって首に負担がかかるというデメリットがありますので、この辺りを考慮して決めると良いです。

② 杖の種類
・単脚杖


この杖は持ち手の形によって名称が異なります。手の機能や用途によって使い分けると良いと思いますが、一般的にはT字杖を使用することが多いです。

・メリット:安定性が向上する、軽い、屋外でも利用しやすい
・デメリット:支持性が低い、杖把持側に傾きやすい、介護保険のレンタル対象外

・ 多脚杖(四点杖)


四脚の幅や形状はものによって異なります。

・メリット:ある程度体重をかけられる、介護保険のレンタル対象
・デメリット:重い(最近は軽いものあり)、外で使にくい(最近は四脚の幅が小さく、可動式のものもあります。)

・ロフストランド杖

肘を支えてくれる杖の為、四点杖より体重をかけられます。

・メリット:患側の免荷効果高い、手首や肘関節に問題がある方に良い
・デメリット:重い、かさばる

・サイドケイン

メリット:患側の免荷効果高い、床からの立ち座りにも利用可能
デメリット:かさばる、把持側に傾きやすい

・松葉杖

・メリット:完全免荷が可能
・デメリット:使用方法が困難の為若者向け、脇の下の神経を圧迫しやすい、重い、かさばる

・プラットホーム杖

これは肘で支えるタイプの杖になります。

・メリット:肘が伸びない方や手で支えられない方に良い
・デメリット:肘への負担が大きい、かさばる

・ハンドレールステッキ

車輪付きの杖の事をいいますが、これは介護保険レンタル対象外です。福祉用具業者でも取り扱っていないかもしれません。しかし、案外、利用者さんからは好評の商品になります。

・メリット:杖を持ち上げなくて良い、杖をうまく出せない方には良い
・デメリット:支持性が低い、坂道や不整地での使用が困難

・ノルディックポール

これは健康な方が運動目的で使用したり、山登りで使用することが多いですが、怪我や疾病で使用する方もおります。

・メリット:腕の振り(胸郭の動き)を促せる、上半身が起こせる
・デメリット:支持性は低い、両手がふさがる、かさばる

 

③ 歩行器・歩行車
歩行器は両手で支えるものなので、両手が使えるのが条件になります
歩行車は、四脚に車輪をつけたものになります。
これらの用語は混在しておりますので、まとめて歩行器と呼ぶこともあります
下の写真のように支持基底面が杖よりも広がります。ただし前方に広がる為、前屈位になりやすいです。

・持ち上げ式歩行器

上肢の力で身体を支えることができる補助具です。歩行だけでなく、立ち上がる際の補助具として使用する方もいます。

・メリット:上肢の力でかなりの免荷が行える
・デメリット:上肢機能が低い方は使えない、段差や方向転換が難しい、速度は遅くなる

・左右交互式歩行器

持ち上げ式歩行器は持ち上げる必要がありますが、これは交互に動く為、持ち上げる必要がありません。

・メリット:上肢の力でかなりの免荷が行える
・デメリット:上肢機能が低い方は使えない、操作性が難しい、段差や方向転換が難しい

・車輪付き歩行器(歩行車)

歩行器の車輪付きなので歩行車と呼ぶ場合もあります。

・メリット:上肢機能が低い方も使用可能、使用方法は簡便
・デメリット:車輪なし歩行器より免荷力は下がる、段差や方向転換は難しい、傾斜道は難しい

・4輪車輪付き歩行器(歩行車)

これはサークル型と呼ばれるものです。前腕で支えるタイプで安定性も高い為、荷重困難な術後などによく使われます。

・メリット:かなりの免荷が行える、安定性高い、上肢機能が低い方も適応(片麻痺も可能)
・デメリット:段差や方向転換が難しい、大きい為狭い場所では使いにくい

・椅子付き歩行車

椅子付きの歩行車になります。屋内、屋外共に利用可能です。大きさは商品によって異なる為、安定性は商品によって異なります。

・メリット:押せば良いので使い勝手が良い、休憩ができる為外出に良
・デメリット:身体が前傾姿勢になりがち、坂道では使いにくい(最近は減速機能付きのものがあります。個人的にはパーキンソン病の方には良いです。)

シルバーカーは自立歩行できる者が買い物などの際に荷物を運ぶ為の補助具のことを指します。よって、歩行困難な者に対する構造になっていない為、支持性に劣ります。

 杖と歩行器のデメリット

繰り返しになりますが、杖の使用は安定性に寄与し、早期の歩行が可能になる為、メリットは大きいです。
しかし、ここではあえてデメリットも伝えておきます。
長期の杖の使用では、杖を持っている側に姿勢が傾斜する可能性があります。

右手に持っている場合はこのようになりやすい。


そして、多くの方が前方に傾斜しやすい傾向にあります。
歩行器(歩行車)も同様に前方に傾斜しやすい傾向にあります。

長期にこの姿勢が続くと、腰痛、膝痛、首痛などの原因になりますし、転倒しやすくなります。

この辺りは運動指導などでカバーすれば良いと思いますが、頭に入れておくことをお勧めします。

 

 どのような補助具を使えば良いのか?

●杖か歩行器か? 
はじめに静止立位保持が可能かどうかでふるい分けします。

・静止立位困難➔杖は難しい為、歩行器を選定
・静止立位可能➔なんでも可能

次いで、患側への荷重の程度でふるい分けします。

・患側片脚立ち困難➔杖は危険。なるべく歩行器。
・患側片脚立ち可能(3秒程度)➔杖適応(文献

杖か歩行器かは手が使えるか?もポイントです。

・両手が使用可能➔杖も歩行器も可能
・片手のみ使用可➔杖かサークル歩行器
・両手使用困難➔サークル歩行器か独歩

その他の要因は恐怖心はどうか?一人で歩くか付き添いで歩くか?どこを歩くか?というのも重要です。

例)
・恐怖心が強い➔単脚杖でなく、多脚杖か歩行器
・一人で歩く➔安全性を考慮して椅子付き歩行器
・施設でのみ歩く➔大きい物でも可能

●単脚杖か多脚杖か
杖の場合、単脚杖か多脚杖で悩む場合も多いと思います。下に例を挙げます。
まずは屋内で使用するか、屋外で使用するかで判断します。

・屋内ならどちらでも可
・屋外なら単脚杖が無難。多脚杖は床面がフラットでないと不安定になる。

そして、上記でも述べましたが患側への荷重の程度も判断材料となります。

・患側への荷重が比較的問題ないなら単脚杖
・患側への荷重が大変なら多脚杖、もしくは両側に単脚杖

●歩行器のありかなしか?
これもよく悩むポイントだと思います。これは室内環境にも適応が変わりますし、その人の使い勝手によっても変わりますが、以下に例を挙げてみます。

例)
・屋内の段差が多い➔どちらでも可能だが、どちらも難しい
・屋外使用が多い➔椅子付き車輪付きが無難
・上肢機能低下➔車輪付きの方が良い場合が多い
・突進歩行がみられる➔減速機能付きの車輪付きが良い場合が多い

 

 まとめ
長々と杖と歩行器について書いてきましたが、それぞれメリットとデメリットがあることを念頭に入れて選択すべきです!
各々の歩行補助具のメリット、デメリットを考慮した上で、最終的には対象者の環境用途身体の状態を考慮して決めましょう!

※執筆者のサロンはこちら➔https://www.reha-me.com



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